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開発奮戦記

投稿日:2021年7月4日 更新日:

フリーフォームとの出会い

今までのモック→倣い加工→CAD と流れる一連のスタンダードな3D設計の風習から
フリーフォームを用いることにより、より自由度の高い3Dを設計することになった。
フリーフォームは、あくまでもモデリング作業であるので後にCAD化しなければならない。
その際に生じる変換誤差もスゴ腕オペレーターのおかげで、誤差を最少化。
そして設計段階で、理想の形状を作り上げることに成功した。

電極作成&放電加工との訣別、直彫りとの出会い

従来の電極作成の際での彫刻では表現できなかった非常に細かい部位の彫刻、
放電加工の際に起こる溶解不良、角形成ダレ、
電極、放電で生じるこのような大きな形状誤差を解決するため、
直接金型合金(CAB)に彫刻加工する「直彫り」を採用することにより、
非常に細かい部位までも明確に表現できることとなった。

立体のマジック

我々は、紙に書かれている2Dではなく、立体(3D)が存在する世界に住んでいる。
そして、立体の大きさ、美しさ、繊細さ、威圧感、醜、等々に非常に敏感であるのだ。

`メルセデスベンツのセダンタイプ、一番大きな Sclass, 二番目に大きいEclass、そして一番小さいCclass。
この3台を比較してみる。
それぞれの横幅と高さは下の通りだ。

  • Sclass 横幅1915mm 高さ1505mm
  • Eclass 横幅1850mm 高さ1455mm
  • Cclass 横幅1810mm 高さ1430mm

一番大きいSclassの横幅は2番目に大きいEclassよりも6.5cm大きく、Eclassの横幅はCclassよりも4cm大きい。
一番大きいSclassの高さは2番目に大きいEclassよりも5cm大きく、Eclassの高さはCclassよりもわずか2.5cm大きい。
手元に定規があれば、この差を見つめてみてほしい。 車という大きな物体から考えると、なんと僅かな差であろうか。
しかし、この3台の違いを我々は確実に識別している。
高速道路で自身が追い越し車線を走行中、、

  • そこにSclassがルームミラーに映る、何とも言えぬ威圧感を感じ思わず走行車線に移動する。
  • そこにEclassがルームミラーに映る、それほど威圧感は感じないが車間距離が縮まってくれば道を譲ろうと考える。
  • そこにCclassがルームミラーに映る、メルセデスと気づいたが、ま、このまま走ろう。。。

このようなご経験があるのではないだろうか。
小さいルームミラーの中の、さらに実際には50m以上離れた物体の5cm程度のサイズ差を識別しているのである。

またある時、車の雑誌や、ネットの画像で新発売になった車を見る
なかなか気になる車が発売された。 カッコよさそうに見える。 自分の頭の中に画像がメモリーされる。
そして、街でその車を目撃する。
現物の立体を目の当たりにすると、頭の中のメモリーは一発で消え去ってしまう。
画像で識別したものとは比べ物にならないほど美しい!
まして、ショールームにその車を見に行ったものならば、とびきりきれいに磨かれた車が計算されたライティングの中でひときわ際立ち、思わず魅了されてしまう。
こういうご経験もおありだろう。
  全体的な形状は画像で把握できたいたはずなのに、思いのほか実物を美しく感じる。
  画像で見た形状だけの美しさではなく、現物の車を目の前にすると
  フロントからリアにかけてのプレス面の流れや、強調されたプレスラインの立体的な美しさを発見するからである。
このように立体というものは、少しのサイズの違いでもかなりのニュアンスが違ってくるし、おうとつ形状の具合でも大きく印象が違ってくるものだ。

新しいルアー開発

これは、新しいルアー開発において、基本的なモックサンプル過程を経て
やっと満足な形状に仕上げた2Dラフイメージイラストである。

我々は立体であるルアーを開発するにあたり、
今までとは違い、できるかぎり頭の中に持っている理想の形状を完全に具現化することを目標にする。
ゆえに、設計段階からやったことのない新しい手法に挑戦し、またやったことのない新しい金型の作り方にトライする。

設計 フリーフォーム

CAD(キャド)には限界がある。 自身が思い浮かべた形状をCADで完全に再生するということ、それは全く不可能であると思い知らされてきたのである。
自分自身が2Dイラストを作る際、既にはっきりとした立体形状イメージが沸き上がっている。
それなのに、CADで3Dを作成していくと自分の頭の中にある形状イメージには近づけない。 
少しでもイメージに近づけるため オペレーターに伝え、修正を試みるが途方もない時間ばかりが過ぎて行き、
半ばあきらめの境地に入り込む。そしてよりベターな妥協点を見つけだし、長い長い修正過程を終了させる。
それが現状ベストの終着点だった。

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フリーフォームを知るに至る。
フリーフォームは3Dを作成するソフトで、途方もない量の球を組み合わせて3Dを設計する方法である。
これを使うことにより、自分の思い描く物体が画面上に登場することになった。
そしてニュアンス程度の修正であっても、何度でも困難なく修正を短時間で施せるのである。
幾度かの修正をした後、PCの画面上には自分が思い描いていた通りの姿がはっきりと再現されることとなった。
生まれて初めて、自分が思う理想の立体がそこにある感激は今でも忘れられない。
惚れ惚れする、、、、セッパリからフロントに続く曲面、ベリーからテールにかけてのかけ上がり、強調したエラ周り、口 全てが理想的な佇まいである。

設計 フリーフォーム

設計段階で、格段の進歩を得られることになったのだが、まだ理想の製品作りには険しい道があった。。。

あるデザイナーがある商品の開発にあたりイメージイラストを作成したとする。
デザイナーの監修のもと、そのイラストを3D化、現在はフリーフォームを使うのでデザイナーのイメージ100%のものが3D資料として出来上がる。

出来上がったフリーフォームをCADに変換(フリーフォームのままでは金型は作成できない)。
悲しいかな、フリーフォームをCADに落とし込む変換作業で乖離が生じるのだ。
しかしフリーフォームのオペレーターが優秀であればこの誤差を10%より小さくすることが可能である。
この優秀という意味は、オペレーターが変換で生じる誤差を熟知しているということである。
優秀であれば、変換のクセを先回りして察知し、あらかじめフリーフォーム段階で手を打つのだ。 これによって誤差は5%-8%に収まる。
不幸にも優秀なオペレーターに出会えなかったら(ほとんど出会えない、、、)、誤差は10%以上、20%に達することもある。
10%の誤差!! 10%も形が崩れたら大変なことに、、、、 と思われるだろう。 
ご心配なく! このパーセントは3D設計上の数値の差であり、10%以下であれば、まず肉眼では気づかないものである、、厳しいデザイナーでも満足する。

我々は、幸いにもとびきり優秀なオペレーターとの出会いを持った。
3D設計上の誤差トラブルは解消されたのである、PC画面上にある 「絵にかいた餅」は完璧である。

そしてこれから金型作りの物理的な問題に立ち向かう!

金型加工 電極作成&放電加工

金型を作成する過程で、まず電極を作成し、放電加工をすることになる。 

金型の材料は超硬合金である。時には金型に何万回も200度以上にもなる高温のプラスティック等の材料を流し込み成形するため、とてもタフな材料を使う。
その硬い硬い合金にどうやってルアーの形状(口、目玉、エラ、鼻の穴 etc etc,,)を彫り込むのか????
実は、彫り込むのではない、合金の表面をルアーの形状になるように溶かすのである。 これが電極による放電加工である。
どうやって溶かすかと言うと、
まず、電極を作る。
銅材にCNC彫刻機によってルアーの形状を作成する、これが電極だ。 銅材は柔らかいのでCNC彫刻機のカッターで削ることが可能である。
銅材は柔らかいという性質ともう一つありがたい特性を持っている、電導性がよいのである。
電極の電導性を生かして放電加工を行う。

絶縁体である加工液の中で 出来上がった電極を金型の材料である超硬合金に0.1~0.2mmまで近づけて両者に電圧を加える、すると放電が開始するのだ。
この放電で発生する熱によって金型合金を溶かし、電極のかたちに彫り込むことができるのだ。 これが放電加工である。

金型加工 電極作成&放電加工<

電極による放電加工の限界

さて、またしても「誤差」の襲来である。
放電加工をするのには、

  1. 電極を彫刻機で削る物理的加工が一度、
  2. 放電による金型合金への物理的加工が一度、

この二度の加工が必要であることは既に説明した。

    美風の50mmのようなサイズに細かい做作を施すとなると、

  1. 電極を彫刻する際に25%の誤差
  2. 放電加工で10%以上の誤差

    が発生する。

この数値も3D上での数値ではあるが、これはどなたが見ても一目でわかるほどの誤差である。 とても深刻である。

まずは、電極を彫刻する際の誤差。
右のものが電極なのだが、銅材をルアーの形状に彫り込んである。
後に放電で金型合金にこの形状を反転して転写する。

  • 電極の状態では製品と同じ形状である。目玉シールを貼る位置は凹であるし、エラは凸、ウロコ線は凹である。
  • そして金型合金は、放電加工による転写後に、目玉シールを貼る位置は凸で、エラは凹、ウロコ線は凸になる。
  • お分かりだろうか!?、金型合金をこのようにすることで、そこにプラスティック材料を流し込むと、電極と同じ形状
  • すなわち目玉シールを貼る位置は凹、エラは凸、ウロコ線は凹、つまり製品そのものの形状になるのである。

電極を彫刻
この電極を彫り込む作業、、、ドリルカッターを使用してCNCマシーンで彫り進んでいく。

が、、、、50mmサイズの美風のような細かい表情、ましてウロコ線などは彫り込む術もカッターも無い。。。。。
全てが小さすぎるのである。よって細かい顔の表現は無理! 諦めなければならない。
ウロコの線はゲージ刀で手作業により切り込むことで細い線は可能である。
だが直線しか切れない、しかも頭から尻尾まで等間隔の線になってしまう、、、自然の摂理はどこかに吹っ飛んで行った。

そして、放電加工の誤差。
アーク放電による熱で金型合金を溶かすわけだが、この「溶かす」という言葉に注目いただきたい。
文字通り溶けるのである、キレのある表情を作りたいため、できるだけ角(カド)を生かした表情にしたい!
が、全て角丸になってしまうのである。
角丸になるだけであれば我慢できる部分もあるが、右の画像の部分などは、かなり極小部位である。
電極に彫刻する際にほとんど再生されず、また放電後にはほとんど消失してしまうサイズである。

放電加工の誤差
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直彫り

「直彫り」という手法を知るに至る。
「直彫り」は、近来日本の金型業界でそう難しくない手法として用いられるようになってきている。
直彫りは直接金型合金を彫刻することである、すなわち電極を作ることは不要になるのである。
よって、まず放電加工も不要になるわけなので、放電加工時の10%程度の誤差は消失する!

また、金型合金に直接彫刻をするということは、、、、
すなわち、目玉シールを貼る位置は凸、エラは凹、ウロコ線は凸、つまり製品とは、反対の形状に彫って行く。
お気づきだろうか、一番細い線を彫り込まなければならないウロコの線は、線を彫るのではなく、
線を形成する凸、つまり出っ張った細い突起物で構成されることになる。
すなわちすなわち!! カッターで切り込むのではなく、カッターで線以外の余白を彫刻することになる→細い線を作ることができる!
下の画像を見ていただければご理解いただけるだろう、この画像は「直彫り第一弾」の失敗作である。。。。。
何分、初めてのトライなので、失敗は付き物。。。。 非常に痛い出費ではあったが、こうして資料として残せたので良しとすることにしよう。。。

左の画像は、直彫りの全体像、中央はマクロで撮った拡大画像(ウロコの線が凹ではなく、凸になっているのがおわかりだろう)
右の画像は、油粘土でテスト押ししたものである、製品状態すなわちウロコの線は凹になっている。

第一弾

第一弾は、上の画像のように、無残な結果に終わった、ウロコの間隔が広く、線を太くしすぎた。。。。。 どうみても上品さにかけるものである。

本田宗一郎氏の言葉を思い出す、、、、
“「新しいことをすると必ず失敗する。チャレンジして失敗を恐れるよりも、
何もしないことを恐れろ。」”
      かくして、再度の挑戦となる。
だが、今度失敗しては何分にも開発費予算の倍以上になってしまう、、、、
細かい準備を繰り返し、細かい前段階のテストを繰り返し再度のチャレンジである。

第二弾

第二弾

なんとかのり切った! ウロコの線も顔まわりもうまくエッジが出て、良い出来である。
ウロコ線は細く、ボディの曲面に沿ってしなやかにカーブ(直線ではなく)しながら、そしてテールに向かって線の間隔が狭くなっているのがおわかりだろう。
また、顔まわりは第一弾よりも よりキレのある表情を再生することができた。

ちなみに、合金の彫刻に使用したのは、R0.2ボールエンドミル。 なんと0.2mm刃である。
このように極細のカッターで、刃先は右の画像のようになっている。
恐ろしいのは、、、加工の途中で刃先が折れてしまうと、刃を交換して続きを彫る、、、ということができない!!!!
まさに「一本勝負」なのである。 刃が折れると、新しい合金を用意して初めからやり直し、、、なのである。
そして、彫刻の所要時間、、、仕上げのR0.2ボールエンドミル使用の加工だけでおよそ40時間ブッ通しで機械を回さねばならない。
仮に停電などが起こると、はい終了。。。。それ自体もう使えなくなる。 最初からやり直しである。。。
日本は電気事情が世界的にもトップのレベル、そうそう停電は起こらないが、電気事情が良くない中国などではまったく無理な加工過程である。

合金の彫刻に使用したのは、R0.2ボールエンドミル

日本は電気事情が世界的にもトップのレベル

幸いにも、刃は折れることなく最後まで持ち堪えてくれた。

かくして 美風50の加工を無事終えることができたのであるが、
優秀なフリーフォームのオペレーター、極細カッターで合金を削るという常識破りの加工を2回とも刃をおらずに成功させたメカニック、この両名だけではなく
他にもいろいろな方のお力添えで成り立った今回の開発であった。
かなり、長い解説になったが、まだまだ細かいことを含め 色々な問題があった。
かかわりを持たせていただいた全ての方々に 感謝の気持ちでいっぱいである。

美風50の加工を無事終える

GL社開発担当コメント

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